左のACのCMをご覧になったことがある方はいるだろうか。
ぼくは、家にテレビが無いのでCM自体は見たことが無かったのだけど、同じ趣旨のACの新聞広告を見て、とても気になっていた。
つうか、はっきり言って怖いよ、これ。
テープの逆回転もかなり怖いんだけど、怖いのはそれだけじゃない。
いくら、自分は平気だと思っていても、カノジョの元カレの元カレの元カレとかがアウトなら、自分もアウトになってしまうかもしれないわけで。
もう、これは他者との交渉を断って、一生引きこもっている以外に、逃れるすべがないわけで。できないって。
そして、何が嫌かというと、もし自分がアウトであれば、自分の大事な人もアウトにしてしまう危険が高いこと。
これは最悪。
だから、いつか検査に行かなきゃと思いつつ、幾星霜。
ほとんどもう忘れかけていた。
ところが、最近になってまたACが同種の広告を始めた。この広告が毎日、パレットくもじの前のオーロラビジョンに流れてぼくを悩ますのだ。
むむ。
そこで、ついに行ってきました。エイズ検査。
これを読んでいらっしゃる方の中には、自分も気になるけど、よくわからない・・・という方も多いと思う。
そんな方の参考になればと、以下レポートいたしましょう。
<検査まで>
まず、どこで検査を受けるか。
エイズ(HIV)の検査は全国の主要保健所で受けられる。
”都道府県名 保健所 HIV”で検索すれば、任意の都道府県で検査をしている保健所がわかる。
ぼくの場合は沖縄県中央保健所(今の那覇市保健所)だった。
検査は偽名可、無料。保険証など一切不要(つまり、沖縄県の場合、他県の人でも受けることができる)。
ただ、前日までに予約が必要。
基本的に検査は昼間のみだけど、月に1回は夜間検査もある。
ぼくは2日後の午後に仕事が早く上がれそうだったので、そこで予約することにして保健所に電話。
『すみません、検査をお願いしたいのですが』とぼく。
『なんの検査でしょうか?』と保健所の人。
こちらが自分の名も名乗らず、検査の名前を言わないところから察してもらいたかったのだが甘かったようだ。
『・・・エイズの検査です』言ってしまってから、なにかこう、後戻りできないところに来てしまったような、そんな喪失感。
(もしかしたら、この検査、受けない方が幸せなのかも・・・)と嫌な予感に包まれる。
でも、感染してるにしろ、しないにしろ、どちらかわからないままなのも嫌だ。
面倒だったんで偽名は使わず、本名で予約した。
<いよいよ検査>
いよいよ検査当日。
運悪く、保健所に向かうバスの中で知人に会ってしまった。
どこに行くのかと聞かれる。
何と答えよう?
下手に嘘をついても、保健所に入るところを見られてしまったら却ってやばいことになる。
仕方ないから、正直に保健所に行く旨を伝えたが、何をしに行くのかまでは聞かれなかったのでほっとする。
別に悪いことはしていないはずなのだが、どうしても平家の落ち武者のようにびくびくとしてしまう。悲しい。
与儀十字路でバスを降りる。
保健所まではバス停から徒歩で3分ぐらい。
だから、あっという間についてしまう。
予約した3時にはまだ間があるが、外は暑いので保健所の中に入る。
案内板を見ると、HIV検査は第一相談室だ。まだ早いけどとりあえず行ってみよう。
ぼくが第一相談室(名前から受ける感じと異なり、オープンな部屋だ)に入るなり、
『どうぞ!予約の方ですね?』男性係員の愛想がよい。
そして、あれよあれよというまに小部屋に入れられ、申込書と問診票を記入するように言いおくと、係の人は扉を閉めて小部屋から出ていく。
見ると、問診票はかなり突っ込んだことを訊いている。素面で他人に訊ねるような内容ではない。係の人が席を外すわけだ。
もっとも、この問診票、書きたくない人は書かなくても良いことになっている。
ぼくは検査代のつもりで全部正直に記入したけれども。
記入が終わると別室で採血。HIV検査は血液検査なのだ。
採血担当は美しい看護師さん・・・ではなくて、与儀公園のベンチで寝ているところを連れてこられたような、五十がらみのおじさんである。
白衣もつけず、私服なのでなんか場違いである。
しかし、人はみかけによらないものだ。このおじさん、採血の達人だったのだ。
注射針が触れた瞬間、微かにチクッとしただけで、あとはまったく痛みが無かった。こんな採血ははじめてである。
採血が終わると、検査の申込書の半券にナンバリングしたものを渡され、1時間後に第一相談室に戻ってくるように言われた。
<結果が出た!>
結果が出るまでの1時間、どこで何をしていてもいいのだが、炎暑の中に出ていく気になれないぼくはそのまま保健所のロビーに残った。
備え付けの長椅子に座り、持ってきた横溝正史の『憑かれた女』を読み始めたが、いつか眠ってしまった(疲れた男ですね・・・失礼)。
携帯電話の振動。目が覚めた。時間だ。
第一相談室に入っていくと、先ほどの愛想が良かった男性係員の態度が妙によそよそしい。
なんか嫌な予感。
そして、さきほどとは違う小部屋に案内され、そこで待つように言われる。
案内された部屋が違うということにも、何か意味があるように感じて嫌な予感が高まる。
すぐに、誰か来るのだろうと思ったが、誰も来ない。
5分、10分・・・時間が経っていく。
こちこちと時を刻む時計の音が大きく感じられる。
なんで、こんなに時間がかかるのだろう。
不安になった頃、五十がらみのおばさんが現れた。このおばさんも私服なのである。
保健所とはそういうものなんだろうか。
おばさんはぼくに先ほどの半券を出すように促す。
そして、ぼくから受け取った半券を自分の手元の書類と照合してから、おもむろに口を開いた。
『検査の結果ですが・・・・』
効果を確かめるように、おばさんが言葉を切る。
(ゴクリ・・・)
『マイナスです。陰性でした』
―たすかった・・・。
それが、正直な気持ちだった。
こころの中に、懐かしい顔が次々に浮かんでくる。
(安心してください!大丈夫でしたー!)
晴れ晴れとした気持ちで、ぼくは心の中で叫んだのである。
(※万が一、陽性だった場合でも、現在では病気の進行を止める薬があるそうです。早期発見が大事なようです)
(2011.09.04)